最近、「モノに対する関税」だけではドル安を演出しきれないかもしれないから、トランプ政権が「カネ(金融取引)に対する関税」=金融取引税を検討するんじゃないか、という興味深い記事を目にしました。
「え…アメリカさん、投資歓迎してなかったの?」と首をかしげたくなりますが、その記事にはブラジルの事例やら歴史上の金融取引税の話が紹介されていて、なかなかスリリング。
でも、ちょっと待ってください。どうもその論旨に矛盾っぽいものが潜んでいるような……。今回はその辺をツッコミながら解説していきます。
- 海外資金を呼び込みたいの? それとも追い出したいの?
話をざっくりまとめると、「ドルが強すぎると米国産業が苦しいから、ドル安にしたい → なら海外からの米国株投資なんかも減らさなきゃだね → じゃあ“カネに関税”かける(金融取引税)案もあるかも?」という流れ。
ところが、トランプ政権が就任当初から大いにアピールしていたのは「アメリカへの投資を呼び込み、国内を活性化させる!」というメッセージでした。減税策なども掲げていましたし。
それなのに、「投資マネーは来ないで!」と言わんばかりの金融取引税までチラつかせるというのは、かなり真逆の印象を与えます。ここにまず矛盾の香りが……。
- 「ブラジルの金融取引税」と「米国の巨大市場」はだいぶ違う
ブラジルが過去に実施した金融取引税(IOF)で、外国人投資家の資金流入を抑えた例が取り上げられています。でも、ブラジルとアメリカでは経済規模も通貨の国際的地位も段違い。
ブラジルでは、急激なレアル高を抑えたい狙いがありましたが、その副作用として、国内投資家まで資金を海外に逃がし、結果的に経済不安が高まってしまった…。
アメリカほどの巨大市場が「ドル高を嫌がって金融取引税をバンッと導入する」とは、ちょっと筋書きとして無理やり感がありませんか? そもそもドルは世界基軸通貨。こんな壮大な実験を米国が本気でやったら、その衝撃はブラジルの比じゃないはず。記事でもそれを「やるかもしれない」レベルで書いているのは、ちょっと飛躍しているような印象です。
- “株価下落”したら誰が一番困る?
もし海外からの投資マネーが逃げてしまえば、米国株の需給が悪化し株価下落リスクが高まると考えられます。株価が落ちて真っ先にダメージを受けるのは、米国企業や米国投資家です。
「自国の企業や投資家が痛むかもしれないのに、本当にそんな荒療治をやるの?」という疑問は自然に湧きます。
政治的には「ウォール街の反発は必至」「年金や保険など機関投資家の不満爆発」「一般市民が“401k(年金積立)下がるじゃないか!”と怒る」など、想像するだけで米国政権には耐えがたい荒波が。つまり、よほど背に腹は代えられない状況でもない限り、米国側にメリットあるのかな? と首をひねりたくなります。
- そもそも“噂の合意”に根拠はあるのか?
要するに、「(もしドル安にするため)輸出に関税をかけられるなら、投資にも関税をかけられるじゃない?」
という“可能性の話”が広がっているだけであって、証拠は出ていない。裏を返せば、マスコミやアナリストが盛り上げているだけの“空想筋書き”かもしれません。夢のような(悪夢かも)仮説を語られても、読者としては「まぁ一応そんな方法も理屈上はあるかもね」ぐらいに留めておくのが妥当でしょう。
つまり、
• 「ドル高に困ってるアメリカが、モノだけじゃなくカネもブロックする」とは言うけれど、投資呼び込みを重視する米国の政策と真逆では?
• ブラジル事例とアメリカ巨大市場を単純に同列比較するのはちょっと飛びすぎ。
• 海外資金が逃げて株価が下がったらアメリカ国内も被害甚大。やれるかな…?
• 噂レベルの話が「現実味を帯びたプラン」っぽく語られていて、裏付けは薄そう。
要するに、金融取引税導入の「可能性がゼロとは言えない」なんて、そりゃ何でもゼロじゃないですけど(笑)、元記事のように飛躍したシナリオで語られると、「え、本当かいな?」と戸惑います。
少なくとも現時点では、金融取引税導入の現実味はかなり低いでしょうし、矛盾や影響リスクを考えると、よほどの危機でもない限り米国が踏み切るとは考えにくい、というのが冷静な見方ではないでしょうか。
いかがでしょうか?
「カネに関税かける」という派手な話はインパクトがありますが、ちょっと考えると突っ込みどころ満載。こういう“センセーショナルな金融話”はトピックとして面白いですけど、裏づけと整合性のチェックはしっかりやりたいものですね。
今後もこういうニュースが出たときは、是非「それ、本当に実現性あるの?」と疑ってみるクセをつけましょう。政治も経済も、予定調和ではいかないからこそ面白い…なんて言いつつ、投資する側としては常に冷静なチェックすることです。